今日はお繕いの一日でした。
夫の剣道袴のほころびを直し、息子の弁当袋の持ち手を付け替えました。
ずっと前から頼まれていたのに、ずっとずっと放ってあったんです。
何か新しいものを考えたり作ったりするのはワクワクして、すぐにでもやりたくなるんですけど、ほころびたものを直すというのはなんだか億劫で後回しになってしまいます。
でも実は、本当はこれが一番大事なことなんだよな、と針を動かしながら思いました。
今日は職人さんの仕事からいただいたちょっとした気づきのお話です。
剣道袴のお直し
夫が2本袴を出してきました。袴がちょっとだけ長いのでちょうどいいのに合わせて短くして欲しいそうです。ほんの1cm程です。
多分毎回履くたびに、あー長いなと思いながら、それでもほんの少しのことなので、気持ち上にあげて履いていたんだと思います。
それでも激しく動いているうちに少しずつ下がってくるんでしょうね。これ少し上げて欲しい、と言ってきた時にはもう裾がボロボロでした。
こんな感じです。
ミシン目を解いたら布は避けて破れました。今回は短くするのでこれを取って、新たに裾を細く3つ折りにします。
もう一本のぴったりの長さのものもあちらこちら擦り切れて穴が開いていました。裾を開いて布を当ててミシンでたたき、もう一度三つ折りにして元に戻します。
裾を上げるだけと簡単に思っていたら、なんのなんの結構な仕事です。
職人さんの手仕事を垣間見る
藍をたっぷりと吸い込んだ綿は重くて硬いです。きっと職人さんが何度も藍竈につけたんでしょうね(っていうのは美しき妄想で工場で生産されてるのかもしれませんが、、、) ほどいた糸の奥には、黒にも紫にも見える濃い藍色が現れました。
この色なんていうのかなと和の色名を調べてみたら、黒に近い藍色のことは「濃藍(こいあい、こあい)」「深縹(こきはなだ)」「搗色/褐色/勝色(かちいろ)」、、、などがありました。
中でも「かちいろ」の由来が興味深いです。
勝色(かついろ)とは、紺よりもさらに濃い、黒色に見えるほどの暗い藍色のことです。『かちいろ』『かちんいろ』とも。色名の「かつ」は、藍を濃く染み込ませるために布などを搗 かつ(叩くの意)ことからきており、『搗色』『褐色』の字があてられました。
鎌倉時代になると武士たちが濃い藍染の質実剛健さを好み、さらに「かつ」に「勝」の字をあてて縁起色としたのが色名の由来です。
ちなみに、日清・日露戦争時の軍服の紺色も『勝色』と呼ばれ、特別に『軍勝色 ぐんかついろ』とされました。このように勝色は勝利にこだわる武士や軍人に好まれた勇ましい色名といえます。
そうなんです。袴の裾を解いてみたら叩かれたように硬く目が詰んでいて、そこの継ぎ目を三つ折りにすると、もう職業用のミシンでも慎重にしないと針が折れてしまうほど、それほどしっかりとした布になっています。
お直しをすることで、私の知らない職人さんの世界が急に目の前にあらわれてびっくりです。
お直し、修理から学ぶ
修理ってちょっと面倒です。新しいものを作ったりリメイクしたり、、、っていうのは、ものを作った!という満足感や工夫したぞ!という誇らしさみたいな、ちょっと自分を褒めたくなるような、そんな喜びがあるんですけど、修理や繕いってそういうものとは無縁です。頑張っても元に戻るだけで別に代わり映えもしない。誰も褒めてくれないどころか気づきもしない。地味な仕事です。おまけに時間がかかります。新しいのを作るより時間がかかったりします。
でもそれって大事だなぁ、、とそんな思いが、夫の藍染の袴を直しながらじわじわと湧いてきました。
いつもリメイクではジョキジョキとハサミを入れてしまうんですけど(もちろん残ったところも極力使いますが)、袴のきっちりと縫われたミシン目をほどいているといろんな気づきがあります。私は縫い物の素人だけれど、きちんと縫われた職人さんの仕事が、たくさんのことを教えてくれます。
ミシン目を揃えること、丁寧に縫うこと、ごまかさないこと、、、そんな言葉にするとなんということのない単純なこと、当たり前のことなんだけど、それを言葉を持たない仕事が物語るとすごい説得力があるんですよ。寡黙な師匠にじっと見据えられ、背筋がピンと伸びるような思いです。
良いものを大事に使う
お直しをするためにはやっぱりいいものを買わないとなぁと思います。
本当は金額など関係ないんです。高かろうと安かろうと大事に使えばいいんですけど、人間ができてないので、お金のかかったものは勿体無くて大切にするし、お金のかかってないものはつい粗末な扱いをしてしまいます。
毎日毎日そのものの扱い方や思いのかけ方が変われば、そのもの自体の存在感や輝きが違ってくるのは当然だと思うんです。
自分がどんなものにも平等に感謝の気持ちを込められたらいいんですけどね、なかなかそれができないので、なるべく作り手のわかったきちんとした仕事のものを身の回りに置きたいと思います。
以前にこのブログでも紹介しましたけど、大好きな絵本に「ゴールディーのお人形」というのがあります。この中で主人公の人形作家の女の子は分不相応な高価なランプを月賦で買います。割引してもらっても、一生懸命に人形を作って得る生活費の3ヶ月分もするランプを買うんです。
でも彼女は後で後悔します。どうして安くなんてしてもらったんだろうと。今までに見た一番美しいものにどうして全額払わなかったんだろうと。
彼女はそのランプから真摯な作り手の思いを汲み取るんです。
ものはたくさんいらないから、一つ一つそんな思いで手にとって選ばれたものたちとの暮らしは、どんなに満たされて心落ちつくことでしょうね。
まだまだ道半ば、間に合わせのもの、とりあえずのものに頼って生活していますが、ひとつづつ使い切りながら、大切なものを大事に丁寧に扱う暮らしにシフトしていきたいと思います。