今日は絵本ではなく児童文庫なのですが、絵本画家でもある著者 東 君平さんのシンプルでほのぼのする切り絵が随所に使われていて、とても読みやすくてじんとくる絵本です。
のぼるはがんばる
のぼるというのは東さんちの猫の名前です。3か月で東さんちにもらわれてきた、世の中のことをなーんにも知らないのぼるくんの目から見た、人間の暮らしや日々の出来事が語られます。
家中を探検していたのぼるは、ある日屋根裏部屋でチューインガムというへんなやつに出会います。目と口の空いた卵の殻の覆面をかぶっていて、話の終わりにチューというんです。チューインガムの正体わかりますよね。
のぼるは、お菓子をくれて、物知りで、ちょっといい匂いのするチューインガムを尊敬し、だんだん好きになっていくんですけど、ある日猫友だちにチューインガムのことを話してしまって、会わせる約束をしてしまいます。さて、、、
のぼるの無邪気ゆえの残酷さを、チューインガムは小さい体で精一杯、胸を張って優しく受け止めます。どちらもまっすぐで切ないお話しです。のぼるもこの本を読んだ子どもも、この切なさを胸にひとつ成長してゆくことでしょう。
もう何十年も前、初めてこの本を読んだ20代の頃も感動しましたが、この本を本当に味わえるのは大人です。子どもができて成長を見守る今、改めて深く感じるものがあります。
以前はのぼるとチューインガムの友情物語として読んでいましたが、今はチューインガムとのぼるを親子になぞらえて、チューインガムの気持ちに寄り添っている自分がいます。
自分の手の内に置いていた子どもが、気付いたらどんどん世界を広げて、親の築いてきたものをスルリと飛び越えて行ってしまいます。この春、義務教育を終える息子とのぼるが重なり、余計に感じるものがあるのかもしれません。
長く生きていると、時間の流れとともにやってくる別れをたくさん経験します。「人生にはどうしようもないことがある」ことを何度も知らされます。人はそれでもなんとかして、心を保って生きていかなければなりません。
そんな厳しさを知る大人だからこそ、チューインガムの寂しさに共感し、潔さとこれからに拍手とエールを贈りたくなるのです。自分を励ますように。
調べてみたら、それ程人気のある本ではないようですが、もっともっと読まれてほしい本です。しばらく絶版になってましたが再版されているようです。こちらをどうぞ
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